ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 水の歴史館 > 水の歴史館 幻の音風景 水琴窟(すいきんくつ) 1.極楽寺の水琴窟

本文

水の歴史館 幻の音風景 水琴窟(すいきんくつ) 1.極楽寺の水琴窟

ページID:0070304 更新日:2017年1月16日更新 印刷ページ表示

ライン

幻の音風景 水琴窟(すいきんくつ)

1.極楽寺の水琴窟

極楽寺「三帰庵」
極楽寺「三帰庵」
 この建物には「三帰庵」と書かれた扁額(へんがく)(注1)が掲げられていますが、どういう意味があるのでしょうか。

【神野顕彰氏】  「三帰庵」と命名した由縁(ゆえん)は、仏教の教えである「三帰」から取っています。三帰とは、仏そのもの(仏)、仏の教え(法)、その教えを説く者(僧)、その三つのもの(三法)に帰依することで、これらに全てを任せ、救いを請うというか、素直になるという意味があります。
 ここは茶室が基本ですが、写経道場としても使われています。日本の伝統文化といえば、お茶、お花といわれていますが、ここで学習をしてもらい、みんながより幸せになってもらいたいという思いから、昭和59年に先代住職の神野龍幸が「文化道場」として建築しました。

神野顕彰氏
神野顕彰氏
 三帰庵の入口にある水琴窟は、いつごろ誰によって造られたのでしょうか。

【神野氏】  平成9年に先代住職の神野龍幸が、今日お越しいただいている松山市北梅本町の水琴窟師の中村洞水氏に依頼し、茶室・写経道場の入口に水琴窟を造ってもらいました。しかし、「平成13年芸予地震」で三帰庵の所が地滑りを起こし、水琴窟も被害を受けたため音がしなくなりました。
 そこで、平成14年に再度、中村氏に工事を依頼しました。甕の石組みを全て取り除き甕を掘り出してみたところ、甕の下の方(甕の口の部分)にヒビが入っていたため、新しいものに取り替えてもらいました。音の出るものというのはヒビが入ると駄目なんですね。

 以前の甕と平成14年に取り替えた甕とでは、どのような違いがあるのでしょうか。

【中村洞水氏】  以前の甕は私の自信作でした。滋賀県甲賀市の信楽(しがらき)まで出かけ、2日間泊り込み、江戸時代の登り窯(注2)で焼かれたという素晴らしい信楽焼(注3)の甕を一つ見つけだしました。そして窯元さんに何度も粘り強く交渉をして、やっとのことで手に入れた“思い出の甕”で良き妙音(みょうおん)の傑作でした。先代住職は「この甕を土の中へ埋めるのはもったいないな」と話されていました。
 平成14年に取り替えた佐賀県武雄市の多々良焼(ただろうやき)(注4)の甕は、信楽焼きには及びませんが、前の音に近いものにはなっていると思います。

中村洞水氏
中村洞水氏
神野顕彰氏  今、水琴窟の音を聞くことができますか。

【神野氏】  ちょっと耳を澄ませてみてください。聞こえませんか。心を静めると聞こえてきますよ。ほらね。ここから(茶室)でも心地よい琴のような音が聞こえてくるでしょ。ぴーん、ぴん、ぴぴんとか。ぽろんとか、音が続くこともあれば間隔をおいて音がするときもあります。なんとも心静まる音色ですよ。水の量、また、滴(しずく)(注5)の落ち方によっても音がまちまちで、いろんな音を奏でてくれます。
 不思議なもので、その日の気分によっても聞こえ方や、感じ方も違ってきます。水琴窟は同じ音を奏でないところに魅力があるんです。

水琴窟の音(mp3形式:5分2秒:4.6MB)
音提供:水音(みずおと)研究所

神野顕彰氏 水琴窟を茶室の入口に設置する目的を教えてください。

【神野氏】  茶室の近くには蹲踞(つくばい)(注6)がひとつの道具としてあります。その中に手を清めるための手水鉢があり、その下に排水装置に工夫を凝らした音響装置としての水琴窟があるのです。
 水琴窟というのは、ともすれば人を思いやる余裕を失いがちの忙しい中、心の余裕というのか、静かに滴の音を聴いて心を澄ましていただくために設置するものだと思います。季節や時間でも滴の音が変化する水琴窟は、余韻美学の最高傑作だといえます。

 極楽寺(三帰庵)の水琴窟の良いところを教えてください。

【神野氏】  三帰庵は極楽寺蔵王殿と本坊の中間にあって静かな所です。交通の便は市街地と比較すれば悪いと思いますが、住めば都です。四季折々の自然を体感することができる極楽です。
 三帰庵の水琴窟は谷水を引いており、一年中きれいな音を奏でてくれています。ロケーションとしては最高の場所だと思っています。
 四季それぞれの山の緑の匂い、山を渡る風の音、竹の葉の擦れ合う音、鳥のさえずりの中で聞く水琴窟はなんとも心が安らぎます。皆さんもたまには雑踏を離れ、極楽寺の三帰庵に水琴窟の音を聞きに来てみてはいかがでしょうか。

神野顕彰氏

(注1)扁額(へんがく)

建物の内外や門などの高い位置に、通常は横長に設置される額(がく)・看板で、建物の名称を示すほか、建物にかける創立者の思いなどを記すことがあります。

(注2)登り窯
陶磁器を焼く窯のひとつ。丘などの傾斜面に階段状に、数室から十数室の房を連続して築いたもの。第一室の燃焼の余熱を各室に利用します。中国・朝鮮で開発され、日本では朝鮮系の唐津焼が初めて築きました。
(注3)信楽焼(しがらきやき)
産地は滋賀県甲賀市信楽町で、付近の丘陵から良質の粘土が出る土地柄で、長い歴史と文化に支えられ、伝統的な技術によって今日に伝えられています。日本六古窯のひとつで、特徴は土中の鉄分が赤く発色する火色や、窯の中で炎の勢いにより器物に灰のふりかかる、灰かぶり現象による自然降灰釉(ビードロ釉)の付着、また、薪の灰に埋まり黒褐色になる「焦げ」も含めた、炎が生み出す独特の焼き上がりにあるといわれています。
(注4)多々良焼(ただろうやき)
産地は佐賀県武雄市で、文禄・慶長の役の時、武雄領主に同行した陶工たちによって焼き始められました。400年前から伝わる、「叩(たた)き手」と呼ばれる特殊な製陶技法を忠実に守っています。手びねりで紐状の土を重ね、網目などの模様が入った木の棒で叩き上げて作られた陶器は、素朴で温かみのある落ち着いた色調が魅力です。
(注5)滴(しずく)
したたり落ちる液体の粒。また、それがしたたり落ちること。
(注6)蹲踞(つくばい)
日本庭園の添景物のひとつで、露地(茶庭)に設置されます。茶室に入る前に、手を清めるために置かれた背の低い手水鉢のこと。

前のページへ 次のページへ ライン