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![]() 極楽寺「三帰庵」 |
この建物には「三帰庵」と書かれた扁額(へんがく)(注1)が掲げられていますが、どういう意味があるのでしょうか。
【神野顕彰氏】 「三帰庵」と命名した由縁(ゆえん)は、仏教の教えである「三帰」から取っています。三帰とは、仏そのもの(仏)、仏の教え(法)、その教えを説く者(僧)、その三つのもの(三法)に帰依することで、これらに全てを任せ、救いを請うというか、素直になるという意味があります。 |
![]() 神野顕彰氏 |
三帰庵の入口にある水琴窟は、いつごろ誰によって造られたのでしょうか。
【神野氏】 平成9年に先代住職の神野龍幸が、今日お越しいただいている松山市北梅本町の水琴窟師の中村洞水氏に依頼し、茶室・写経道場の入口に水琴窟を造ってもらいました。しかし、「平成13年芸予地震」で三帰庵の所が地滑りを起こし、水琴窟も被害を受けたため音がしなくなりました。 |
以前の甕と平成14年に取り替えた甕とでは、どのような違いがあるのでしょうか。
【中村洞水氏】 以前の甕は私の自信作でした。滋賀県甲賀市の信楽(しがらき)まで出かけ、2日間泊り込み、江戸時代の登り窯(注2)で焼かれたという素晴らしい信楽焼(注3)の甕を一つ見つけだしました。そして窯元さんに何度も粘り強く交渉をして、やっとのことで手に入れた“思い出の甕”で良き妙音(みょうおん)の傑作でした。先代住職は「この甕を土の中へ埋めるのはもったいないな」と話されていました。 |
![]() 中村洞水氏 |
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今、水琴窟の音を聞くことができますか。
【神野氏】 ちょっと耳を澄ませてみてください。聞こえませんか。心を静めると聞こえてきますよ。ほらね。ここから(茶室)でも心地よい琴のような音が聞こえてくるでしょ。ぴーん、ぴん、ぴぴんとか。ぽろんとか、音が続くこともあれば間隔をおいて音がするときもあります。なんとも心静まる音色ですよ。水の量、また、滴(しずく)(注5)の落ち方によっても音がまちまちで、いろんな音を奏でてくれます。 |
水琴窟の音(mp3形式:5分2秒:4.6MB)
音提供:水音(みずおと)研究所
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水琴窟を茶室の入口に設置する目的を教えてください。
【神野氏】 茶室の近くには蹲踞(つくばい)(注6)がひとつの道具としてあります。その中に手を清めるための手水鉢があり、その下に排水装置に工夫を凝らした音響装置としての水琴窟があるのです。 |
極楽寺(三帰庵)の水琴窟の良いところを教えてください。
【神野氏】 三帰庵は極楽寺蔵王殿と本坊の中間にあって静かな所です。交通の便は市街地と比較すれば悪いと思いますが、住めば都です。四季折々の自然を体感することができる極楽です。 |
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(注1)扁額(へんがく)
建物の内外や門などの高い位置に、通常は横長に設置される額(がく)・看板で、建物の名称を示すほか、建物にかける創立者の思いなどを記すことがあります。