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「西条市地下水の保全及び管理並びに適正な利用に関する条例」が制定される背景には、大きく分けて以下の3つの要因があります。
合併前の旧西条市では、地下水を直接汲み上げて生活用水として使用している家庭が多いという背景から、資源調査が行われるなど、地下水に対する関心が高い地域でした。平成13年に、マンション建設に伴う地下水汚濁が発生し、条例制定の必要性が強く叫ばれるようになり、平成16年4月に、「西條市地下水の保全に関する条例」が施行されました。
そのすぐ後となる、平成16年11月に、市町合併となりましたが、東予市、丹原町、小松町では、地下水資源調査が実施されておらず、条例に規定されている手続きの履行は難しいということになり、条例の全市適用は見送られ、旧西条地域に限定された暫定施行となりました。
その後、道前平野地下水資源調査の実施や、西条市地下水法システム研究会の設置により、条例の見直しが進められ、自然科学的知見をもとに、地域性等を考慮した条例項目の検討がなされ、研究を重ねてきました。その間に、水循環基本法が施行され、これまで土地に付随するもの(個人のもの)と考えられていた地下水が、ある種の「公水」として捉えられるようになってきました。
西条市議会令和4年度9月定例会において、これまでの調査研究に基づき、「西条市地下水の保全及び管理並びに適正な利用に関する条例」を提出し、議決をいただくことができ、本市の地下水行政における一つの節目となったところです。
以下より、旧西条市のエリアを西条平野、旧東予市・丹原町・小松町を合わせたエリアを周桑平野として説明します。
西条市では、パイプを15~30メートルほど打ち込むだけで、良質な地下水が湧き出てくる、広大な自噴域が形成されています。
上の地図は、西条市の自噴域を示したもので、網掛けの中の濃い紫で囲われた地域で、自噴することが確認されています。
図の右側の囲いとなる、西条平野の自噴域は8.1平方キロメートルにわたって形成されており、地下水の最大埋蔵量は3億5千万立方メートルと推定されています。また、図の左側の囲いとなる、周桑平野の自噴域は8.2平方キロメートルにわたって形成されており、地下水の最大埋蔵量は3億7千万立方メートルと推定されています。
自然の圧力により、地上に湧き出る地下水の自噴水や自噴井は「うちぬき」と呼ばれています。この、「うちぬき」に代表される地下水は、西条市のシンボルとして、広く市民に認識されています。
西条市は、地形や気候、河川環境などが相まって、豊富で良質の地下水資源に恵まれ、「水の都」と称されており、地下水は生活用水としてだけではなく、農業・工業用水としても使用される、不可欠な地域資源となっています。
地下水は流れが遅く、一部の場所で無秩序な採取や汚染が発生すると、その影響は長期に、また、広範囲に及ぶことが想定されます。
西条平野においては地下水の塩水化、周桑平野においては硝酸態窒素等濃度の問題が顕在しています。
また、今後想定される問題として、気候変動などの自然環境の変化や、林業、農業等の産業を取り巻く環境の変化、市街地の都市化といった、社会経済状況の変化に伴い、地下水への様々な影響が予想されます。
西条平野の海側では、地下水の塩化物イオン濃度が水質基準値より高い井戸が存在します。(塩化物イオンの飲用基準値は200mg/ℓ)
上の地図は、地下水の塩化物イオン濃度の違いを色分けして示したもので、赤い地域ほど塩水化が進行しています。普段は使用可能な井戸でも、雨が少ないかんがい期には、塩化物イオン濃度が水質基準より高くなることがあります。
また、完全に塩水化した井戸を元に戻すことは難しく、これまでにも、塩水化した地域で、簡易水道を整備したり(港新地・樋之口八丁地区)、かんがい用水を地下水から河川水へと転換する(禎瑞地区)など対策が行われてきました。
通常、沿岸部の地下では、陸側に侵入してくる海水を、海側に押し戻す地下水の圧力でくい止めています。図の右側の、地下水と海水の境界部分で起こっています。しかし、農業用水の地下水利用が増加することや、かんがい期に雨が少ないことがあると、加茂川の流量低下により、地下水の涵養量が減少し、地下水位が急激に低下します。(※西条平野における、地表から地下へと涵養される地下水のうち、約70%は加茂川からの伏流であることが判明しています。)
その結果、地下水が海水を押し戻す力が弱まり、海水の侵入を許すことにより塩水化します。
周桑平野の地下水の多くは、水道水の水質基準値より低く、飲用に適していますが、硝酸態窒素濃度は全体的に高くなっています。(硝酸態窒素の飲用基準は10mg/ℓ)
下の地図は、地下水の硝酸態窒素濃度の違いを色分けしたもので、赤い地域ほど濃度が高いことを示しています。
一般的には、硝酸態窒素濃度が高くなる要因として、生活排水、肥料等の影響が挙げられます。なお、植物等に吸収されなかった硝酸態窒素濃度が特に高くなっている地域は、水はけが良く、畑地に適している扇状地です。硝酸態窒素は土壌に吸着されず、雨で浸透しやすいという性質を持つことから、周桑平野の地質と相まって、地下水の濃度を押し上げたものと考えられます。
近年、降雨形態に変化が見られており、降水量が多い年と、少ない年の差が大きくなる傾向が見られ、豪雨の日が増加し、少雨の日が減少しています。この傾向は、平野部より山間部において、より大きく現れています。
西条市では、山間部に降る雨が、河川水となって平野に流れ込み、地下に伏流することで豊富な地下水を生み出しています。この伏流には安定した河川流量が必要です。近年の豪雨時では、山地での流れが速く平野での流路が短い加茂川は、本来の伏流機能が十分に発揮されず、大量の河川水が海に流出してしまいます。結果、この近年の降雨形態の変化によって、地下水涵養量の減少が懸念されます。
木材価格の低迷による林業家の経営意欲の減退、担い手不足、不在村所有者の増加等を背景に、間伐などの森林施業が適正に行われていない人工林が増加しています。森林は、降雨を土壌中に貯留し水質を浄化する水源涵養機能や、崖崩れや土砂の流出を防ぐ国土保全機能を持ち、豊富な地下水の涵養源となっており、適正に管理されていない森林の増加により、森林からの地下水涵養量が減少する要因となります。
農業従事者の高齢化や、農業就業人口の減少などにより、農業を支える担い手が減少することで、耕作放棄地が増加し水田などの経営耕地が減少しています。農業用の地下水利用量が減少する一方で、水田などからの地下水涵養量が減少する要因となります。
市街化地域での宅地開発や、マンション建設などによる、地下水の新規揚水が進んでいます。住宅の建築や商業地域の広がりに伴う土地利用の変化は、平野に降る雨の地下浸透を減少させることに繋がります。
西条市の上水道等における水道水源の約90%は、地下水を使用しており、給水区域に居住しているかどうかに関わらず、地下水は、市民生活に欠かすことができないものです。下の図は上水道の給水区域図です。
図の色が塗られているエリアが給水区域です。
旧西条市の中心部とその周辺では、自噴する「うちぬき」や地下水を直接汲み上げる生活をしているため、上水道等は整備されていません。
また、上水道等の整備区域であっても、地下水の直接利用を行っている家庭も多くありますが、現状では、地下水を直接利用している家庭などでは、量水器が設置されていないため、地下水の使用水量を把握することは困難です。
西条地区の給水率は東予地区、丹原地区、小松地区を合わせた4地区の中で最も低い一方で、1人1日当たり使用水量では最も高くなっており、節水意識が薄いことが伺えます。これは、使用水量に応じて、水道料金が発生する上水道等だけの結果ですが、西条市の中でも、各地域における市民意識に違いが見られることが分かります。
「水循環基本法」は平成26年7月に施行されました。
基本理念の一つとして、第3条第2項に、「水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることに鑑み、水については、その適正な利用が行われるとともに、全ての国民がその恵沢を将来にわたって享受できることが確保されなければならない。」と、規定されています。この法律の施行により、地下水を含む水が、公共性の高いものとされ、地下水がいわば「公共水」として位置付けられました。
さらに、第5条では、地方公共団体の責務として、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、水循環に関する施策に関し、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」と、規定されており、地域の特性に応じた水循環に関する施策を策定・実行しなければならないということが規定されました。
西条市地下水保全管理計画は平成29年に策定されました。
この計画では、「地下水の保全・管理の方向性」や、「条例の見直し方針」、「市民・事業者・行政が地下水の在り方について話し合うための協議会を設置すること」などについて定めています。
この計画で定められた、「地下水の保全・管理の方向性」の内容については、次のとおりとしています。
以上のような、方向性が示されました。
また、地下水保全管理計画において、「条例の見直し方針」として、平成16年から旧西条市域を対象に暫定施行している、「西條市地下水の保全に関する条例」の見直しを行うことが示されました。それに伴い、条例の内容についても見直しを行うことが示されており、見直し内容として、次のような内容が挙げられています。
以上のような、方針が示されました。
以上の要因から、これからの未来に向けて地下水を保全するため、条例が制定されました。
他のページでは、この背景を受けて、条例では地下水をどのように保全していくように規定しているのか、旧条例からの変更のポイントをご説明します。