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西条祭り、やっぱ好っきゃねん!/西条まつり 祭りびとの想い(9)
東京都在住/医師 伊藤 雅史さん
平成22年10月15日午後7時30分発、新幹線のぞみに身一つで飛び込んだ。
岡山で快速に乗り換え、「遅い!」。次の坂出の乗り換え40分間は気が遠くなるような長さに感じた、焦る焦る。そして午前1時過ぎ、ついに西条に降り立った。
西条祭り30年振りの参戦である。
子どもの頃から祭り好きで有名であった。
登道は二階建ての古い屋台、揺すれば欄干がずれ落ちることもしばしば、いつ潰れてもおかしくない、商店街で皆、リキがない、魚屋町と北町に挟まれてノロノロしてるとあおられる、何じゃといきり立つと一触即発、中村の孝兄さんがいつも身を投げ出して制止した…、次々と思い出が蘇る。
大学に進んでからは試験があっても当たり前のように帰郷した。
医者になってからも研修医の2年間は色々理由をつけては西条祭りに帰った。転機となったのは新潟県にある関連病院への出張であった。
3年目ともなると主治医となり責任も重くなった。
常時20~30人の患者を受持ち、毎日手術・検査・外来診療、時間・休日に関係なく呼び出され、まとまった休みが取れなくなったのである。
天職と疑わない外科医としての自分に誇りを感じ、充実感と成長の喜びに満ちた新しい第二の人生の始まりに、迷うことなく自ら西条祭りを封印したのである。
西条祭りをこよなく愛するが故に、中途半端は気持ちが許さない。
西条祭りの情報を得ることは勿論自ら止めて、手持ちの写真や書籍も目につかないようにした。自他共に認めた祭りバカが、よくぞここまで徹底したと自らを誉めたものである。
その後、「西条祭り命の第三の人生」に戻る契機は、25年を経た東京道前会(※)である。
74回(同級生)の猪川君からお誘いを受けて、初めて出席したが、会場に太鼓が持ち込まれ、伊勢音頭の大合唱である。西条祭りのポスターが並べられ、懐かしい宮入り(最近は川入りと称す)が目に入る。
以前は二階建てが多かった中野地区の屋台が大型に変身し、彼方の土手には目を疑うような多数のだんじりの列が見えるではないか!
(参考 2016年川入りの様子)
話を聞くと、年々盛んになって全体で80台ほどになっているとのことである。
私の記憶にある西条祭りは、みこしを入れても40台程度、登道など担夫(かきふ)が集まらず、齢60の総代も担がなければ動かない、スプリング入りの車が出来たが、皆、足を挟まれ大けがをする…、そんな状況であったため、いくら祭り好きとはいえ衰退の憂き目を予感していた。
しかし…、想像以上の隆盛を極めていたのである。
封印したつもりではあったが、気になって仕方がない、ネットを調べると西条祭りのホームページができている。
何と登道の後輩、藤田正紀君によるものではないか!登道も平成元年に新調され、白木の重厚なだんじりとして生まれ変わった(個人的には西条一と確信する)。
(1989年新調時の登道だんじり)
ネットでは西条祭りのライブ配信があり、YouTubeなるものもこれを機に見始めた。東京道前会では西条祭りをテーマとした、文化論としての特別講演が開催された。
そのような状況の中で、封印した自分を恨めしく思い、しかし、男たるもの変節漢となるのは許されない、でも、この目で登道だんじりを見てみたい、否、担ぎたい。
悩み続けて5年が過ぎ、意を決して0泊2日ツアーを決行することとした。第三の人生の始まりが、冒頭の場面である。
時刻は午前1時30分、御旅所にはまだ余裕と思ってると、駅西通りから突然だんじりが出てきた、登道である。
随分早い出発と思ったが、台数が増えてから本当のオールナイトとなったようだ。
若い衆は知らぬ顔ばかり、しかし、偉そうに(失礼)している総代連中は、皆、私の弟分ではないか、互いに年を取っても直ぐ分かる、分かってくれた。
御旅所から御殿前、玉津、川入りまで登道だんじりに付きっきり、町並みは大きく変わったが、祭りの楽しさ、喜びは30年の時空を超えて不変であった。
旧知の友にも多く出合った。皆、温かく迎えてくれた。皆、祭りバカである。
午後6時の特急しおかぜに乗り、のぞみに乗り換え深夜、東京に到着した。30年の闇が1日で晴れ渡った、新たな人生の始まりである。
その後は、毎年、ゆとりの3泊4日ツアーで祭りを堪能している。あたかも、30年の空白を残り少なくなった晩年で取り戻そうとしているかのようである。
(2012年宮出し 右前担き棒に私)
若い衆も同世代の二世であることも分かってきた、よく面倒を見てくれる心温かき後輩である。
毎年、青年団から川人会(川人三郎氏彫刻による登道、船形、上神拝、清水、富士見町、御所通りの6屋台)DVDをプレゼントされる。
最近は私の姿を意図的に画像に入れているようでもある。嬉しい事ではあるが、第一の人生に生きる私はこのように呟いている、「とろいおっさん、ひっこめ」…、「うるさい、ほっといてくれ」と叫ぶ第三の人生の私、命果てるまで西条祭りに入れ込むことは間違いない。
(2016年御殿前 左前担き棒に私)
※編集部注釈 東京道前会…西条高校の関東地区の同窓会。
この原稿は、2015年東京道前会報に掲載されたものを転載したものです。