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民話 えんこの話
民話
えんこの話
むかしむかし、小松の高井家の先祖が、近くの川で馬の体を洗っていました。そこへ、えんこ(かっぱ)が出て来て、馬を水の中に引きずり込もうとして、馬の足を抱え込みました。驚いた馬は、足にえんこをからませたまま、一目散に家に逃げ帰りました。水の中でこそ力が発揮できても、陸に上がって頭の皿の水が乾くと弱ってしまうえんこのこと、すぐに家の者につかまってしまいました。
重い石うすにつながれて、「おまえは悪いやつじゃ」とせっかんされました。えんこはヒイヒイ死にそうな声を上げ、「命ばかりはお助けを!!」とひたすら嘆願しました。「命を助けてくれたら、お礼にのどに刺さった魚の小骨を抜く方法を教えましょう」と涙ながらに言いますので、かわいそうになって、えんこを放してやることにしました。魚の小骨抜きの秘法を教えた後、えんこは過行橋の近くで川に戻されました。
のどに刺さった魚の小骨を抜くには、口を大きく開けて中に小刀を差し入れ、呪文を唱えるのだそうです。すると不思議と小骨がぬけて、今までの苦しみがうそのように消えてしまいます。この話を伝え聞いて、のどに刺さった小骨を取ってもらおうとする人が、ぼつぼつ高井家を訪れていました。しかし、戦後になってからは、この秘法を受け継いでいる人がいませんので、訪れてもお断りするそうです。
あるとき、今在家から小骨を取って欲しいという人が来ました。お断りしても、せめて道具だけでもいただかして欲しいと言って、道具をおしいただいて帰って行きました。途中の過行橋を渡るうちに小骨が取れたと、後日お礼に来たということです。ただ道具をおしいただいただけでもご利益があったのでした。高井家には、呪文を記した紙片と小刀が古びたこおりに納められて、今も大切に保存されているということです。