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民話 ひょうたん池の伝説
民話
ひょうたん池の伝説
国安の村うえに、ひょうたんの形をした大きな池があり、村人たちはそこを「ひょうたん池」と呼んでいました。
池の中ほどの細くくびれているところに木の橋が架かっていました。その両側に、森の大蛇とひょうたん池の主であった大蛙のものと伝えられるお塚がありました。
むかし、むかし、美しい娘が橋の上を通りかかって、池の中をのぞいてみました。水の面が鏡のように澄んで、美しい娘の顔を映し出しました。「美しい娘だ。わしの嫁さんに決めた」どこかでそんな声がしました。娘は、あたりを見わたしましたが、だれもいません。娘は恐ろしくなって、家へ逃げて帰りました。
その日の夕方、蛙のような目をした大男が、娘の家へやってきて「娘さんを嫁にもらいたい。今晩、白い着物を着て橋の上に座っておれ。目印にローソクを立てておけ。もし、いいつけを守らないと、水は一滴もやらないぞ」と言って帰りました。娘は昼間のことを思い出して、ふとんの中にもぐりこんで一晩中震えていました。
すると、どうでしょう。あんなにたくさん流れていた水が、翌朝起きてみると一滴もありません。村中、大騒ぎになりました。水がなくては稲が枯れてしまいます。
娘は、水がなくて困っている村人のために、泣く泣く大蛙のところへ嫁入りすることになりました。白い着物を着て、一本のローソクを立てて橋の上に座っていた娘は、余りの恐ろしさにとうとう気を失い、その場に倒れてしまいました。娘の長い髪が、風が吹くたびに、ローソクの火の上になびいてジリジリ焼けました。
髪の焼ける匂いが鎮守の森の中に流れてゆきました。森の中に住む大蛇は、髪の焼ける匂いが大好きなので、その匂いをたどって、橋のそばまで近づいてきました。
一方、池の方では、池の水がゴォーとふくれあがり、皿くらいの大きな目玉を光らせた大蛙が現れて、娘に近寄っていきました。
その時、大蛙は、橋の反対側から、長い舌をちろちろ出しながらやってくる大蛇に気がつきました。大蛙は思わぬ邪魔ものに驚きましたが、負けてなるものかと娘を飛び越えて、森の大蛇に飛び掛かって行きました。
蛇は蛙の体をくるくる巻いて締め付けました。蛙は大きな口を開けて、蛇の首すじに食いついて、池の中へ飛び込み、水の中へもぐろうとしました。大蛇と大蛙のすさまじい闘いは、しばらく続いて、池の水はものすごい音をたててはね返りました。
夜が明けて、村人たちが池のそばに来てみると、大蛇も大蛙も水の上に浮いて死んでいました。可哀相に娘も橋の中ほどで息を引き取っていました。村人は、橋の両側に大蛇と大蛙を埋めてお塚を作り、供養しましたので、ひょうたん池の水は元のように流れ続けました。
村の墓地の入口にある古い小さなお墓は、水の犠牲になったこの娘の墓と言い伝えられています。
