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民話 戻って来た木
民話
戻って来た木
王至森寺の境内の裏山に鎮守法性大権現の祠がある。
その梁に二本の流木が安置されているが、それには次のようないい伝えが今も語り継がれている。ころは江戸時代、小松藩主が大阪に御蔵屋敷を、建築されることになった。
あちらこちらと、良木を探しているうちに、領内の王至森寺の木をそれにあてようと言うことになった。
この森は、昔から天狗が住んでいるとか、夜半参道に大きな牛が横たわっていたとか、そのほか霊験を信じる人が大勢いたが、ついに藩主の命令で森の木は切り倒され、海を越えて大阪へと運ばれていった。
やがて、建築用材として使われ、御蔵屋敷は完成した。が、ふしぎなことに、御蔵屋敷では、毎夜、「王至森寺へ帰りたい、帰りたい」と、泣く声が不気味に聞こえるようになった。
人々はあまりの恐ろしさに、その木を浜へ運び海へ投げ捨てたところ、一陣の風が吹き、みるみるうちに西方へ流れて去った。数日後、現在の戻川に流れついた流木に人々は驚き、これは権現様の怒りにふれたためだと知った。
そこで村人たちはその木をもとの森にかえし、安置しおまつりを続けたという。
そして、木の流れついたところを、“木が戻ってきた川”という意味で「戻川」と呼ぶようになった。