本文
加茂川河口 生きもの調査 結果報告 H26.7.12
西条市地域連携保全活動計画策定事業
加茂川河口 生きもの調査 結果報告
平成26年7月12日(土曜日)、加茂川河口干潟で生きもの調査(市民参加型)を行いました。
干潟の多様な機能
はじめに ~今回の調査地について~
日本列島の沿岸域は、生物多様性がきわめて高いことが特徴です。とりわけ陸と海の移行帯は、干出時間の差異・地形・底質・淡水の影響などの環境条件が多様なために、さまざまな底生生物が生息します。
干潟がなければ、沿岸生態系には大きな負荷がかかります。干潟最大の機能は、河川から流れ込む有機物や栄養塩を蓄積することです。また、有機物や栄養塩は干潟にすむ生きものたちの食物連鎖によって処理されます。干潟に住む底生生物は、干潟環境においてきわめて重要な役割を持ちます。
干潟は海の「水処理工場」としての機能を持っています(「干潟生物の市民調査」調査リーダーの手引き2011 抜粋)。
2回目となる加茂川の干潟調査
西条市には、貴重な干潟が残されています。加茂川河口干潟にどんな生きものがどのくらい生息しているかを調査するべく、2回目となる「市民参加型 生きもの調査」を行いました。調査方法は「干潟生物調査ガイドブック ~東日本編~」に則って行いました。調査リーダーは西条自然学校 山本様、光澤様、専門家として高知大学教育学部 伊谷准教授にもご参加いただきました。
調査の様子
調査結果
刺胞動物
No. | 名称 | 表層(S) | 底土中(B) | 合計(S+B) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
発見班数 | 発見率(%) | 発見班数 | 発見率(%) | 発見率(%) | 優占度 | ||
11 | ムシモドキギンチャク科 | 0 | 0 | 1 | 9.1 | 9.1 | + |
扁平動物
No. | 名称 | 表層(S) | 底土中(B) | 合計(S+B) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
発見班数 | 発見率(%) | 発見班数 | 発見率(%) | 発見率(%) | 優占度 | ||
19 | ヒラムシ類 | 1 | 9.1 | 2 | 18.2 | 27.3 | ++ |
紐形動物
No. | 名称 | 表層(S) | 底土中(B) | 合計(S+B) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
発見班数 | 発見率(%) | 発見班数 | 発見率(%) | 発見率(%) | 優占度 | ||
11 | ヒモムシ類 | 0 | 0 | 5 | 45.5 | 45.5 | ++ |
軟体動物
No. | 名称 | 表層(S) | 底土中(B) | 合計(S+B) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
発見班数 | 発見率(%) | 発見班数 | 発見率(%) | 発見率(%) | 優占度 | ||
26 | ヒメケハダヒザラガイ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + |
44 | ミヤコドリ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + |
58 | ウミニナ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + |
113 | イボニシ | 6 | 54.5 | 0 | 0 | 54.5 | ++ |
114 | アカニシ | 2 | 18.2 | 1 | 9.1 | 27.3 | ++ |
118 | アラムシロ | 8 | 72.7 | 0 | 0 | 72.7 | +++ |
179 | カリガネエガイ | 2 | 18.2 | 0 | 0 | 18.2 | ++ |
190 | マガキ | 0 | 0 | 1 | 9.1 | 9.1 | + |
214 | シオフキ | 0 | 0 | 2 | 18.2 | 18.2 | ++ |
225 | ユウシオガイ | 0 | 0 | 2 | 18.2 | 18.2 | ++ |
242 | オキシジミ | 1 | 9.1 | 7 | 63.6 | 63.6 | ++ |
253 | アサリ | 0 | 0 | 1 | 9.1 | 9.1 | + |
271 | ソトオリガイ | 0 | 0 | 1 | 9.1 | 9.1 | + |
環形動物(多毛類)
No. | 名称 | 表層(S) | 底土中(B) | 合計(S+B) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
発見班数 | 発見率(%) | 発見班数 | 発見率(%) | 発見率(%) | 優占度 | ||
274 | チロリ科 Glycera属 spp. | 0 | 0 | 4 | 36.4 | 36.4 | ++ |
275 | ヤマトキョウスチロリ | 0 | 0 | 5 | 45.5 | 45.5 | ++ |
292 | イトメ | 0 | 0 | 1 | 9.1 | 9.1 | + |
299 | イワムシ | 0 | 0 | 1 | 9.1 | 9.1 | + |
300 | コアシギボシイソメ | 0 | 0 | 5 | 45.5 | 45.5 | ++ |
309 | ミズヒキゴカイ | 0 | 0 | 1 | 9.1 | 9.1 | + |
節足動物
No. | 名称 | 表層(S) | 底土中(B) | 合計(S+B) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
発見班数 | 発見率(%) | 発見班数 | 発見率(%) | 発見率(%) | 優占度 | ||
スジエビモドキ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + | |
381 | イソテッポウエビ類 | 3 | 27.3 | 1 | 9.1 | 36.4 | ++ |
384 | ニホンスナモグリ | 1 | 9.1 | 5 | 45.5 | 45.5 | ++ |
385 | ハルマンスナモグリ | 0 | 0 | 1 | 9.1 | 9.1 | + |
387 | アナジャコ | 0 | 0 | 1 | 9.1 | 9.1 | + |
394 | ユビナガホンヤドカリ | 9 | 81.8 | 1 | 9.1 | 81.8 | +++ |
397 | マメコブシガニ | 3 | 27.3 | 0 | 0 | 27.3 | ++ |
409 | マキトラノオガニ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + |
417 | トリウミアカイソモドキ | 1 | 9.1 | 1 | 9.1 | 18.2 | ++ |
422 | イソガニ | 3 | 27.3 | 1 | 9.1 | 27.3 | ++ |
423 | ケフサイソガニ | 7 | 63.6 | 0 | 0 | 63.6 | ++ |
424 | タカノケフサイソガニ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + |
430 | ヒメアシハラガニ | 3 | 27.3 | 2 | 18.2 | 36.4 | ++ |
435 | カクベンケイガニ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + |
457 | オサガニ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + |
458 | ヤマトオサガニ | 1 | 9.1 | 9 | 81.8 | 81.8 | +++ |
稚ガニ(種不明) spp. | 0 | 0 | 2 | 18.2 | 18.2 | ++ |
棘皮動物
No. | 名称 | 表層(S) | 底土中(B) | 合計(S+B) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
発見班数 | 発見率(%) | 発見班数 | 発見率(%) | 発見率(%) | 優占度 | ||
488 | ヒモイカリナマコ | 0 | 0 | 3 | 27.3 | 27.3 | ++ |
魚類
No. | 名称 | 表層(S) | 底土中(B) | 合計(S+B) | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
発見班数 | 発見率(%) | 発見班数 | 発見率(%) | 発見率(%) | 優占度 | ||
アベハゼ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + | |
トサカギンポ | 1 | 9.1 | 0 | 0 | 9.1 | + |
調査地域:加茂川左岸 龍神社前
調査日時:2014年7月12日 16時~18時
No.は干潟ベントスフィールド図鑑(日本国際湿地保全連合)の生物種通し番号
11班(ひと班2~4名)で実施
合計(S+B)は、SとBを区別せずに合計
優占度:+++,優占種(発見率70%以上)
++,普通種(70%未満、10%あるいは発見者数2以上)
+,少数種(10%未満あるいは1班だけの発見)
伊谷准教授(高知大学教育学部)のコメント
はじめに ~今回の調査地について~
先日は暑いなか、調査に参加いただきまして、ありがとうございました。昨年秋の調査に引き続き、西条自然学校の光澤さんが調査を取りまとめてくださいました。今回の調査地は龍神社付近で、加茂川左岸側の最先端分、ほぼ海辺の干潟で底質は砂泥からなっていました。干潟を分類する際に、河口のヨシ原や塩性湿地に続く干潟を河口干潟、河口より海側にできる前浜干潟と分類することがありますが、本調査地は両者の環境が混ざる移行帯と言えます。台風8号の影響で加茂川が増水し、ゆるい地面に足を取られて泥をかぶりながらも無事に調査を行うことができ、その結果、40種あまりの動物が記録されました。昨年の調査では、加茂大橋上流側の地点で、30種あまりの記録でした。そのときと共通の種は6種だけですので、地点によって干潟の生物群集を構成する種が大きく異なることが実感できたと思います。
絶滅危惧種も多く生息する加茂川河口
昨年の市民調査ではレッドデータブックに掲載されている種についてコメントしました。今年の調査でも、日本ベントス学会が作成したレッドデータブックで「準絶滅危惧」と指定された種が8種採集され、日本全国で数を減らしていて、絶滅が心配される種が加茂川にたくさん暮らしているということから、加茂川河口の干潟の自然が豊かで貴重な存在であることが分かります。今回の市民調査のコメントでは、参加者の多くの方が採集された種を中心に解説します。
【調査結果解説】干潟表面の生きもの
まず、干潟表面では多くの班が巻貝のアラムシロと甲殻類のユビナガホンヤドカリを採集していました。アラムシロは腐肉食者として知られています。干潟に生物の死骸があると、この巻貝が集まってきれいに食べ尽くしてくれます。ユビナガホンヤドカリは雑食ですが、主には干潟表面のデトリタス(生物の死骸や破片、排泄物が細菌などによって分解される途中のもの)を食べているようです。生態系といえば、光合成を行う植物、植食動物、肉食動物といった流れが頭に浮かびますが、アラムシロやユビナガホンヤドカリのような死んだ生物を処理してくれる流れがないと、干潟が生物の死骸やその破片で埋め尽くされてしまうでしょう。
【調査結果解説】泥の中の生きもの
次に、泥の中に住む生物をスコップで掘り出したところ、二枚貝のオキシジミと甲殻類のヤマトオサガニが多く採集されました。ヤマトオサガニは干潟表面のデトリタスと底生珪藻を食べるようです。珪藻は代表的な植物プランクトンとして知られますが、干潟には、プランクトンとして水中を漂わずに、泥の上にくっついて光合成を行うものがあり、これを底生珪藻と言います。ヤマトオサガニが無心に泥を食べ続ける姿をご覧になったと思いますが、干潟の泥はデトリタスや底生珪藻といった餌の宝庫となっています。カニには口のまわりに6対の口器が生えており、それらを器用に使って、泥から餌を取り出しています。オキシジミは他の二枚貝と同様、水中の植物プランクトンを食べています。1個体だけ採集されたアナジャコという甲殻類も水中の植物プランクトンを食べます。これらの生物は濾過食者とも言われ、水中の植物プランクトンを濾過して水をきれいにしてくれます。二枚貝でも、2つの班で採集されたユウシオガイは長細い水管を干潟表面に出して、掃除機のようにしてデトリタスを吸い込みます。干潟に多様な生物がにぎやかに暮らしていること(干潟の生物多様性)によって、干潟の生態系の浄化機能が活発に働いています。
たくさんの発見が眠る、生態系の調査
今回の調査では、ゴカイの仲間(多毛類)も採集されました。にょろにょろ系の生物で、どれも同じように見えるのですが、光澤さんの頑張りで、5種が同定されました。比較的多くの班で採集されたヤマトキョウスチロリやコアシギボシイソメは獰猛な捕食者です。1班だけ採集してくれたミズヒキゴカイは多数の感触糸を干潟表面に出して、デトリタスを食べます。今回採集されませんでしたが、河原津の干潟にはタマシキゴカイという種が多数見られます。この種は干潟の泥を丸呑みしてデトリタスを消化して、きれいになった泥を、まさにとぐろ状に排出します。このように、同じグループの生物でも食性が異なるものもいて、また、食性が違うと、形態も異なります。生物の名前が分かるようになったら、その生物の生態を調べてみてください。生態系への理解が深まると思います。ただし、海の生物には生態のよく分からない種がたくさんあります。その場合は、ご自身で調査をしてください。たくさんの発見がまだまだ眠っていると思います。
おわりに ~調査を継続して、生態系の変化をつかもう~
最後に、今回の調査では、かつて加茂川の干潟に大量に生息していたナルトアナジャコやユムシが採集されませんでした。ひょっとすると何か重大な生態系の変化が起きている可能性があります。今回のような調査を継続的に行うことにより、どの種が増えてどの種が減ったのかを克明に記録する必要があります。みなさんの調査に期待しています。