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日経グローカル掲載記事(367号)

ページID:0055306 更新日:2019年7月9日更新 印刷ページ表示

グローカルインタビュー

 自治体間競争で「生き残りではなく、勝ち残り」   ICTを駆使、スマートシティの実現目指す

 愛媛県西条市は、人口減少・超高齢化の進行に対応するため、全国の自治体の中でもまだ取り組み例の少ない最先端の施策・事業を多方面・同時並行で展開している。ICT(情報通信技術)の活用、スマートシティの推進、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)の導入、「関係人口」の育成・拡充、健康ポイント制度の導入、地域自治組織の設立など、人口約11万人の地方の中規模自治体としては異例ともいえる多彩なまちづくりをここ3年で相次いで打ち出している。2016年11月の就任以来、「ワクワク度日本一のまち西条」を掲げて一連の取り組みをけん引する玉井敏久市長に狙いや実績、課題等を聞いた。

 ――玉井市長の就任を機に、西条市が大きく変わり始めたと指摘されている。

 当時、県議だった私が市長を志したのは、人口減少・超高齢化の問題が深刻化し、このままでは西条市がダメになるのではないか、自治体間競争で勝ち残れないのではないかと危機感を強めたためだ。市政衰退の流れを変えるには「わくわく感」が必要と考え、市長選に挑戦するに当たって、元気溢れる新しい西条を創り上げるための分かりやすいメッセージとして打ち出したのが「ワクワク度日本一のまち西条」というキャッチフレーズだ。このもとに「市民主役の西条」の実現や「住みたい西条」の実現など5つの基本政策を設定し、それぞれに5項目ずつ計25項目の施策を掲げて、西条市として初のマニフェスト市長選に挑んだ。現在、本市が推進している先進的な施策の多くは、これらの基本政策に位置付けている。

 公約は市民との約束であり、破るわけにはいかない。公約25項目の進捗状況を幹部職員とともに定期的に確認・検討しており、任期中に達成できたのかできなかったのか、0か100かの基準で最終的に8割以上の達成を目指している。

 ――これまでに何を実現・達成したのか。 

 就任以来、本当に多くの施策に取り組んできている。「市民主役」の観点から「行政と地域の住民が協働するまちづくり」を進めており、小学校区を単位とする「地域自治組織」の設立を急いでいる。2018年度に2つのモデル地区でスタートし、全25校区での設立を目指している。

 「ICTを活用したまちづくり」も強力に推進している。市長就任直後に「スマートシティ西条」の実現を宣言し、17年度に構想を固めた。ICTの積極的な活用によって、若い世代が「住みたい」「住み続けたい」と思えるまちづくり、幅広い世代が安全・安心に住めるまちづくりに取り組んでいる。18年度に「健康都市」を目指す第一歩として、健康寿命の延伸などを目的にICTを活用した「わくわく健康ポイント」事業を開始した。また、高齢者が安全・安心に住み続けられる仕組みづくりの一環として、18年度にICTを活用した2つの高齢者の見守りシステム(ゆるやかな高齢者見守り支援事業)を試験的に導入した。

 1つはスマートフォンを活用した見守りシステム。多くの市民に「見守りアプリ」をスマートフォンにインストールしてもらい、小型の発信タグを持った高齢者の位置情報を把握できるようにすることで、認知症を発症した高齢者などが外出時に行方不明になるのを防止する。もう1つは、対話型ロボット(コミュニケーション・ロボット)を活用した見守りシステム。会話のできるロボットを一人暮らしの高齢者宅に配置し、ロボットからの声掛けや対話によって独居高齢者の生活の活性化と健康・認知機能の維持を図る。離れて暮らす家族にはロボットが撮影した高齢者の写真や音声を提供するなどの支援を行う。いずれも全国的にも画期的で先進的な取り組みだ。

 教育分野でも、前市長の路線を継承してICT化を積極的に推進している。市内小中学校の全教室への電子黒板・デジタル教科書の配備、教育系システムのクラウド化・テレワーク化、遠隔合同授業は高く評価されており、18年1月には「2018日本ICT教育アワード」を受賞した。教育系システムのICT化は教職員の校務の効率化に効果を発揮しており、18年度には教職員1人当たり年間162時間の省力化を実現した。保育現場のICT化も検討しており、保育士の負担軽減につなげたい。

 18年4月には西条を好きな人が市内・市外を問わずに集まり、西条を応援する新たなコミュニティーとして「LOVE SAIJOファンクラブ」を開設した。既に2200人を超える個人および団体会員が登録している。ファンクラブの活動を通じて市内の人、特に若い世代が西条の魅力を再発見し、西条に愛着と誇りを持つ「シビック・プライド」を醸成していくことを目指している。

 またファンクラブは市外会員を「関係人口」と位置付けており、ファンクラブを中心とする市民と市外の関係人口のネットワーク(プラットフォーム)を構築することによって、関係人口の創出及び将来的な定住人口の増加につなげていきたい。

 ――多くの新規施策を同時並行で進める中で、現在特に重視している取り組みは。

 特に力を入れているのは、人口減少対策だ。国の推計を上回るペースで人口減少が進んでおり、2045年には現在より約28%も減るという深刻な事態に直面している。

 人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人口減少を加速させるという負のスパイラルに陥ることは避けなければならず、移住促進による人口の社会増に注力している。18年度に「移住推進課」を新設。東京圏の子育て世代を主なターゲットとしてシティ・プロモーションに積極的に取り組んでいるほか、特に移住検討者を1泊2日で西条に招待する「無料個別移住体験ツアー」に力を注いでいる。ツアーのポイントは「個別」。参加者の個々のニーズに応じた完全なオーダーメード型で、大好評を得ている。19年度は参加者を30組と18年度から倍増する計画だ。

 一連の取り組みが功を奏し、新規の移住者数は18年度に289人と17年度の約3倍に増えた。宝島社の「2019年版住みたい田舎ベストランキング」では、総合部門ほか全5部門で四国第1位となり、特に「若者世代が住みたい田舎」「自然の恵み」の2部門では全国第5位を獲得した。

 ――まさに様々な新規の施策・事業を多方面・同時並行で展開しているが、戦線を広げ過ぎているのではないか。

 地元選出の山本順三参院議員(現国家公安委員長)から、次のように助言されたことがある。「何もかもやろうとすると、どれもこれもつまずきかねない。少し絞ったらどうか」。確かに間口を広げ過ぎかもしれないが、西条の実状はそんな悠長に構えていられない。地元選出の県議として緊張感を持って見ているつもりだったが、市長の職に就いて初めて実態の厳しさ・深刻さが分かった。これまでは認識が甘かった。

 本来であれば時間をかけて取り組みたいところでもあるが、時間は立ち止まってくれない。持続可能な地域社会を実現し、次の世代につなげていくには、スピード感を持ってチャレンジすることが非常に大切だ。これまでのような前例踏襲主義ではダメで、検討すると言って検討しない役所の文化をスピード感で突破しなければならない。まずはやってみる。いきなり即スタートでトライアルし、その成果を点検しながら、必要であれば修正や見直しを加えればよい。財源は税金であり、失敗は許されないが、政治とは「無限の理想への挑戦」だ。従来の価値観から脱却し、いろいろなチャネルを使って何事にも果敢にチャレンジすることが肝要だと確信している。

 ――多方面・同時並行の施策展開を成功させるカギは何か。

 1つは私自身によるトップセールス、もう1つは職員の意識改革だ。就任以来、職員には口を酸っぱくしてこう言っている。「自治体間競争に生き残るのではなく、勝ち残らなければならない」。勝ち残るには職員が目的意識を共有化し、「戦う集団」として機能することが必須だ。そのためには役所の縦割り行政をなくさなければならず、就任直後から「横ぐしを刺せ」「縦割り行政を死語にしよう」と言い続けている。

 横ぐしを刺して連携する仕組みの1つとして、各部署に関連した国や県からの補助金・交付金のメニュー表を作成している。市の財政状況が厳しさを増す中で、各種の新規施策・事業に伴う市の財政負担を少しでも軽減するには、国や県からの補助金・交付金の効率的・効果的な活用が欠かせず、横ぐしの一覧表はその一助になる。就任以来、本市が新たに獲得した補助金・交付金の総額は、私のトップセールスとも相まって約30億円に達している。こうした「稼ぐ力」の育成は自治体間競争に勝ち残るうえで不可欠と判断している。

 


 

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